地域社会の大手術
変革の時代を迎え、地域社会を取り巻く制度・仕組みに大手術が始まろうとしています。私たちの社会の様々な仕組みにメスが入りかけています。地方分権改革推進会議は「事務・事業の在り方に関する意見」として、分野別に135項目の具体的措置を提言しました。
主要課題としては次のような項目をあげています。
社会保障
○幼稚園・保育所の制度の一元化
○保健所長の医師資格要件の廃止
○保育所の調理施設の見直し
教育・文化
○義務教育費国庫負担制度の見直し
公共事業
○「改革と展望」の期間中における国庫補助負担事業の廃止・縮減等の改革
○直轄事業の事前協議等
産業振興
○協同農業普及事業の在り方の検討
○農業委員会の在り方の検討
治安その他
○警察組織の基準の弾力化
○常備消防・救急実施義務市町村の政令指定制度の廃止
改革の方向性としては次のように示しています。
○「補完性の原理」に基づく国と地方の役割の適正化
⇒ナショナル・ミニマムの達成から地域が選択する地域ごとの最適状態(ローカル・オプティマム)の実現へ
○地域における行政の総合化の推進
○地方の創意工夫の発揮と知恵とアイディアの地域間競争
○地方における自立的な財政運営が可能なシステムの形成
⇒受益と負担の関係が明確な仕組みを作ることが必要
○国の決定についての地方の参画の確保
○自主・自立の地域社会の形成
○分権型行政システムへの転換に向けた国と地方の意識改革が重要
これらの改革は、全国平均的な政策推進のシステム(ナショナルミニマム)を止めて「地方の創意工夫の発揮と知恵とアイデアの地域間競争」=「地域ごとの最適状態(ローカル・オプティマム)の実現へ」と転換しようというものです。地方が自らの意思と力量をもって選択する最適状態の実現に向けて創意工夫をこらすことに重点を置こうという考えです。これらの改革には賛同できる点もありますが、公共性という概念を実現するためには、それが全てではないとも感じています。
現在の「地方の収入3割、実支出7割、その差は地方交付税と、補助金、借金で埋める」という仕組みのままでは、何かを始めようにも財源等の問題が発生します。
財源の乏しい自治体は、その自治体が出来る範囲で努力を重ねるしかなく、自分の所で財源的に可能な範囲で処理せざるを得ないので、財源豊富な自治体の住民生活とアンバランスが生ずることはあきらかです。
特に危惧される点は「教育」とか「生活保護」とか「社会保障」など、国民としての共通の権利・サービスに差が生ずることもありうることです。「地域間競争の時代」といっても中身に疑問もあるとは確かです。
話題になった良い例が義務教育の教職員の給与の話です。これは、義務教育費を国庫負担金の対象から外し段階的に縮小し一般財源化を図るといったものです。
国は40人学級を基準として教員の給与費を保障しているわけですが、現在地域の状況としては、少人数学習やティームティーチング等の導入をばじめています。少人数学習をする場合、先生の増員を図っていきたいわけですが、財源の豊富なところでは自分の財源を使って不足を補うことが出来ますが、そうでないところは、基準通りでしか進めることができません。少人数学習を取り入れたくとも取り入れられなくなるということです。
これはまさに、ナショナル・ミニマムからローカル・オプティマムへ移行する上での問題で、地域で行うことと国として行うべき仕事のにおいて公共性という概念を今一度考えていく必要もあると思います。机上での理論と現場の実態はかなり開きのあるものもありますし、現場に近く携わる者としては、現実的な課題に即して処理しないとならないとも考えます。私達は注意深くこれらを見つめていくことを意識していかなくてはならないと思います。